あっくんと生きる

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「左心低形成症候群」と診断された息子の闘病記+親の感情

ノーウッド手術以降の治療計画: 質問集

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はじめに

肺動脈バンディング手術をして一週間が経過しました.その後のあっくんの容態が良好とのことで,「ノーウッド手術」+「グレン手術」の混合型手術ができる可能性が出てきました.

そのことについて病院からの説明があったので,その時のやりとりを忘れないうちにメモをしておきます.「左心低形成症候群」のお子さんを授かったご家族の方も同様のことが気になっていることではないかと思います.

なお,この病気の子では適正と言われる2800g程度であっくんを出産してくれた妻の退院記録と,あっくんのその後の良好な経過については,その名誉(?)を讃える意味も込めて後ほど投稿します^^

循環器科の先生からの説明

担当の循環器科の先生と今回ほど腰を据えて話すのは初めてだったのですが,どんどん話して下さる方だったので,これまでふわふわしていたことについても色々教えて頂けて,とてもスッキリしました!^^

ただし,ここ記述する内容は,投稿時点での医療技術,病院,医師,あっくんの病状と言う複合的な要因が合わさって判断されたものなので,万人に成立するものではありません.専門家でも何でもない人間が聞いた内容を,自身の理解の範疇で書き起こしたものですので,内容の保証も致しません.あくまで一つの事例として解釈していただくよう,ご了承をお願い致します.

参考図書

なお,医師に質問をする前に,下記書籍内の関連事項を読んでいる状態です.

私の「左心低形成症候群」に対する現状の理解は,(いくつかWebページも読みましたが)この本に大きく依存しています.

ただ,この本を読んだ上でもやっぱり気になっていたところがあったので,それを素人目線で先生に聞いてみた,と言ってもいいかもしれません^^;

語り口が柔らかく,図解が豊富なので非常に分かり易いです.記述の順序も体系付けられていて,病気の位置づけが理解しやすいです.また,ページ数が少なく個々の説明が簡潔なため素人でも消化できる分量である割には,ある程度は専門的な用語にも踏み込んでくれています.心臓病の子を授かった家族にとって,必読の書といっても過言ではないでしょう.

担当の先生にも本書籍を読んだことを伝えたところ,患者向けの書籍として高く評価をされていました.

質疑で出てくる多くの用語についても,この書籍に記載されています.患者のご家族には是非オススメします^^

質問集

「ノーウッド手術」に関して

Q. 息子は「大動脈」への血流が少量ながらも確保できていると聞いています.これによる治療上の利点は何ですか?

A.

「大動脈」の血流が確保されているということは,左心室を経由した自立的な循環が微弱ながらも確保できているということです.体循環が100%「動脈管」に依存している状態と比較すると,良好な状態です.そのため,突発的な心機能不全は比較的発生しにくいと言えます.

言い換えれば、「左心低形成症候群」の子供にしては心臓の安定的な機能が保たれやすいため,「ノーウッド手術」までの時間稼ぎがしやすいと言えます.

また,あっくんには他の合併症が確認されないという点からも,時間稼ぎにおいて有利となります.

Q. 「ノーウッド手術」の時期を遅らせることによる治療上の利点は何ですか?

A.

赤ちゃんが成長すれば術後のダメージからの回復が良好となることが期待できます.また外科医の立場からは,患者の身体が成熟している方が臓器が大きくなるため,手術がしやすくなるという利点があります.

大人の心臓は拳一個分ですが,赤ちゃんの心臓はピンポン球1個ほどの大きさらしいです.ピンポン球からひょろっと伸びている細い血管を手術するなんて,もはや神業です.小児外科医,神です.そりゃー,少しでも大きいに越したことはなさそうなことは,想像に難くないです^^;

「ノーウッド手術」+「グレン手術」の混合型手術に関して

Q. 混合型手術による治療上の利点は何ですか?

A.

手術の回数を減らすことができるため,赤ちゃんへの負担が軽減されます.

Q. 混合型手術によって手術の難易度が上がったり,手術時間の延長により子供への負担が大きくなったりすることはありませんか?

A.

難易度,子供への負担,両者について極端な格差はないと判断しております.どちらかと言うと,混合型手術までの成熟の観察と管理のほうが大きな課題になります.

Q. 3ヶ月程度待つと「ノーウッド手術」と「グレン手術」の同時手術ができる可能性があるとのことですが,なぜ3ヶ月待つと「グレン手術」も同時にできるようになるのですか?

A.

「グレン手術」の循環系が成り立つ成熟度の目安が3ヶ月程度と言われているためです.

Q. その状態まで待機する上での課題は何ですか?

A.

必要な待機期間については,子供の成熟度に依存します.実際に3ヶ月経過時点で「グレン手術」の循環系が成り立つかどうかは,実は微妙なこところでもあります.以下の様な要因により時間を稼ぐことが難しい状況に置かれた場合,「ノーウッド手術」単体の手術に移行する場合もあり,それまでの管理が課題と言えます.

  • 「動脈管」を維持するために「プロスタグランジン」という薬を点滴によって投与していますが,この効きが悪くなってくる場合があります.その場合,動脈管が維持できなくなるため,致命的になる前に「ノーウッド手術」を行う必要があります.
  • プロスタグランジンを投与された赤ちゃんは,(体感的ではありますが)成熟が遅延する傾向があります.時間が経っても成熟が見込めない場合には待つメリットが得られないので,「ノーウッド手術」の実施に踏み切る場合があります.

その状況を見極めるために,心臓カテーテル検査等を活用しながら経過観察をしていき,慎重に判断をする必要があります.

Q.何を持って「循環系が成り立つ」と判断できるのですか?

A.

「グレン手術」は,首に位置する「大静脈」から血流を分岐させて「肺動脈」に直結させるものです.ある程度心臓が成熟していないと,血液を十分に分流させることができません.赤ちゃんの心臓がこの分岐する血流を確保できるほどの機能を獲得するときをもって,「グレン手術」後の構成における循環系が成り立つと言えます.

Q. 「フォンタン手術」の実施も幼児期まで待つ必要があるようですが,同様の理由ですか?

A.

はい,そうです.「フォンタン手術」ではいよいよ「上半身」「下半身」両方の「大静脈」からの血液を「肺動脈」に直結させることになります.やはりこの段階ではそれなりに心臓が強くなければなりません.その目安が3歳~5歳と言われています.この病院では12kgが一つの目安とされています.もちろん,あくまで目安であって体重以外の要素も観察しながら手術の時期を見極める必要があります.

「ノーウッド手術」におけるシャントに関して

Q. 「ノーウッド手術」でのシャントの手法にはバリエーションがあるようですが,どういう方針をとられるのですか?

A.

この病院では基本として,「右室肺動脈導管(RV-PA conduit)(通称 佐野シャント)」を採用しています.

いわゆる「BTシャント」では静脈を体循環と肺循環に分流させる構成をとっています.この構成ではフローのコントロールが難しく,最悪の場合血圧の低下に伴い命に関わる事態に至るリスクがあります.

一方,「佐野シャント」の場合は右心室から直接分流させる構成をとるため,体循環の血流が確保しやすく,循環系の安定的な維持が可能となります.フローのコントロールも人工血管の大きさによって調整がしやすいという利点があります.

中学校の理科で習う,オームの法則で連想すると分かりやすいと思います.電圧→血圧,電流→血流,電気抵抗→血管抵抗,と置き換えると,あぁなるほどな,という気がします.

Q. 「佐野シャント」のメリットはよく理解できました.ただし,「佐野シャント」では心臓にメスを入れるので,予後への影響があるのではないでしょうか?

A.

実は,それは重要な点です.確かに,心臓を切開することによる心機能への影響を否定することはできません.その点については事前にしっかり検証する必要があります.

現状においては,フローのコントロールが難しい「BTシャント」よりも,「佐野シャント」の方が致命的なリスクは低いと判断しています.また,心機能への影響を極力小さくするために,右心室への切開の範囲を必要最小限に抑えるような手術上の工夫も計画しております.

ただし,この点の判断は,病院や医師によって異なったり,あるいは時代によっても変遷したりするものであることは認識をお願いします.

肺動脈バンディング手術後に関して

Q. 現在,酸素吸入器を外していますが,サチュレーションは維持できるのでしょうか?

A.

現在の経過を見る限りは問題ないと思います.90程度は確保できています.ただし,成長によってサチュレーションが低下する恐れがあるので,観察が必要です.

Q. なぜ成長に伴ってサチュレーションが低下するのでしょうか?

A.

体が成熟すると必要な酸素の量が増加するためです.前回の肺動脈バンディング手術で施した絞扼度合いは生後5日時点での強度なので,体の成熟次第では適合しなくなる場合があります.

Q. 混合手術までにサチュレーションが維持できなくなった場合にはどのような処置を行うのですか?

A.

実は肺動脈バンディング手術の際に,カテーテルによって後からバンドの幅を拡張できるような処置を施してあります.「ノーウッド手術」+「グレン手術」混合型手術までの待機期間において必要に応じてサチュレーションの確保を図ることが可能です.

おわりに

よく,考えられ,工夫も凝らされています.豊富なノウハウを有するこの病院だからこそなし得る体制でしょう.

どの先生に質問しても,迷うことなく即答して下さいますし,筋も通っています.今後の治療上のリスクを想定したセーフティネットも敷かれているようですし,安心して治療を任せることができると思っています.

ただ,保護者としてはこれで気を緩めることなく,今後も気になったことがあったら質問していこうと思います^^